片翼の蝶



〈それにしても驚いた。お前は俺が見えるのか〉
 

その言葉にえっ?と思う。


お前には俺が見えるのか。


見えるに決まっているじゃない。


何を言っているの?


そう思ってしばらく考え込む。


そして気付いた。まさか、この男……。


「珀は、幽霊なの?」


私の言葉に、珀の唇が綺麗に弧を描いた。


その表情が素直に美しいと思う。


なんて言ったかな、ああそう。


眉目秀麗とはこの様だ。





珀は私を見て一つ頷くと、
私に向かって手を伸ばした。


その白い手はまっすぐ私に伸びて来て、
顔に触れる……と思ったけれど、触れなかった。


そのままその白い手は私を突き抜ける。


触れられないんだ。死んでいるから。


幽霊は生きている人間に触れられない。


勿論、机とか、この本とか物体という物体は
すり抜けてしまう。


珀は手を引っ込めて満足そうに笑った。


〈俺のことが見えたのはお前が初めてだ。
 びっくりしたよ〉


「私だって、びっくりしたわよ。
 だって全然、幽霊っぽくないし」


見分けがつかないとこれだから困る。


もしかしたら今までもこうやって気付かずに
幽霊と話をして顔を合わせていたのかもしれない。


そう思うとぞっとする。


周りからすれば幽霊は見えないんだから、
一人であらぬ方向に向かって喋る
奇妙な女の子になりかねない。


頭を抱える私に向かって、珀は言った。


〈本、好きなのか?〉


「う、うん。読むのも書くのも好き」


咄嗟にそう答えたけれど、口走ってしまった。


小説を書くことは誰にも教えていない秘密なのに、
つい口をついてしまった。


聞き逃してくれると助かるんだけれど。


〈へえ。俺もだ〉


意外な返答に目を瞬かせる。


そして私は頬を緩ませた。


まさか同じような人がいたなんて。