片翼の蝶




私は本が好きだ。


それはもう、どんなジャンルでも。


書くのも好きだけれど
読むのももちろん大好き。


本っていいよね。


その世界に入り込むと全てを忘れられる。


ここには、私の欲しいものが沢山ある。


胸躍るようなドキドキ感だったり、
はたまたドロドロの闇に沈み込む悲しさだったり、


心温まる、涙をさそう感動だったり。


ここには、私の嫌なものは何もない。


だから本は最高なの。




恋愛小説の一冊を手に取って、
パラパラとページを捲る。


そうだ、これにしよう。


そう思ってその本を一度閉じた時、







〈その本、いいよな〉






声がした。


伸びやかな、透明感のある声が。


思わずはっとして本を落としてしまう。


目の前に人がいた。


ここの学校の制服を着た男が。


栗色の短髪に、学ランの中に
パーカーを着て制服を着崩した男。


長身で細身のその男は
私をしっかりと捉えていた。


「だ、誰?」


びっくりしてつい声を上げる。


男は落ちた本に視線を落とした。


〈俺?俺は珀〉


「は、はく?」


〈そう。珀。あんたは?〉


「わ、私は茜」


〈あかね、ね。いい名前だ〉


珀と名乗った男は
しゃがみ込んで本を見つめた。


……拾ってはくれないのか。


〈この本、俺、好きなんだよね〉


珀はそう言って薄く笑った。


私はその本を拾い上げて胸の前に抱えた。


そして珀をじっと見つめる。


珀は立ち上がって私の前に立った。