一日の授業を終えて、
カバンに教科書やノートをしまっていると、
貴子が私の席までやってきた。
その眸は真っ直ぐで、どこか柔らかい。
貴子は既にカバンを手にしていて、
やっぱり取り巻きを連れて立っていた。
「茜。これから映画、観て帰らない?」
「えっと……その……映画はちょっと」
「何?茜、映画嫌い?」
「嫌いじゃないんだけど……」
私には、小説を書くという用事がある。
それはどんな用事よりも
優先させるべきこと。
でもなんて言って断ればいいのか分からない。
俯いてスカートの裾を握りしめていると、
頭上からため息が聞こえた。
「ねえ、茜は私と、
仲良くなる気がないの?」
「えっ……」
「いいわ。行きましょう」
慌てて顔を上げると、
貴子は悲しそうな眸をこちらに返して、
取り巻きを連れて教室を出て行ってしまった。
どうしよう、怒らせてしまったかもしれない。
私はいつもこうだ。
不器用で、どうしようもなくて、
いつも誰かを怒らせる天才なのだ。
お母さんやお父さんだって、友達だって、
誰でも私と関わると怒らせてしまう。
内弁慶だから家ではお母さんやお父さんに
偉そうなことを威張り散らして、
そのくせ教室では言いたいことも
はっきりと言えないようなダメな子。
もっと器用に人と関われたら楽なのに……。
私はまた俯いた。
一人で教室の喧噪を耳にする。
次第にそれは小さくなって、
しばらくすれば全く聞こえなくなった。
代わりにグラウンドの外から声が聞こえてくる。
一人になったことを確認すると、
私はそこでようやく顔をあげた。


