「高田くん、眠ってた」
〈そりゃあ、体を借りたからな〉
「乗り移ると、人はどうなってしまうの?」
〈深い眠りに落ちる。じき目覚めるが〉
珀は、はあっとため息をついてそう告げた。
〈なんでお前を助けた俺が
怒られないといけないんだ〉
「ご、ごめん……」
咄嗟に謝ると、珀はにやりと笑った。
〈許してやらないこともない〉
「で、でも!珀も約束して。
もう絶対に人に乗り移ったりしないって」
〈どうしてダメなんだ〉
「どうしても!だって、眠っている間の
その人の人生はどうなるの?
何もしないで、何も分からないで
時が過ぎるなんて悲しいよ。
そんなのダメ。
それは絶対にしてはいけないことだよ」
珀はうん、と一つ頷くと、そっと口を開いた。
〈じゃあ、お前の体ならいいか?〉
「えっ?」
私が声を上げると、
珀は唇に大きく弧を描いて私を見た。
〈体を貸せ。それが最後の願いだ〉
体がぐらりと揺れた。
私の体を、貸す?
珀はにやにやと笑うと私の胸に手を伸ばした。
白く細い腕がすっと伸びてくる。
心臓がトクン、と一つ鳴った。
瞬間、何も聞こえなくなる。
この世界に私しかいなくなってしまったみたいに静かになり、
時が止まるような感覚に陥った。
触れられる。
何故かそう思って背筋がゾクリとした。
咄嗟に身を引いて珀の手から逃れると、
珀の手は宙にぶらりと浮いた。
その手を見て、珀は動きを止めた。
私も、そこにある白い手を見つめていた。
〈まあ、嫌ならいい。そもそも
二つ目の願いもまだ叶えられていないからな〉
その言葉を合図に、時間が動き出す。
はぁ、はぁと息が上がるのを感じた。
自分の胸に手を当てて心臓の音を確かめる。
大丈夫。私は生きている。
そう実感して、私は珀を思い切り睨みつけた。
珀は困ったように笑うと、私を見つめた。
〈怒るな。冗談だろ。悪かったよ〉
「そんなの、冗談にならないよ」
〈ちょっとふざけただけだ〉
「珀の馬鹿」
〈悪い〉


