片翼の蝶




「茜~。何書いてんの?」


はっと我に返った。


見上げると、貴子が取り巻きを連れて
私の席の前に立っていた。


貴子の視線の先には私のノートがあった。


珀が貴子と取り巻きを見て怪訝そうな顔を見せた。


「それ、何?」


「これはその、えっと……」


「授業のノート?何のやつ?」


「違う、けど」


「じゃあなに?」


何でもないことなのに、
責められているような気持になる。


これは何?


私たちに混ざらず一人で何をしているの?って。


今まで物語を書いてきてこんな風に気付かれるのは初めてだった。


失敗した。


いつもと同じように、授業が始まってから書けばよかった。


気持ちが良いからって、
早く続きが読みたいからって焦ってしまった自分を呪いたい。



私はさり気なく腕でノートを隠していた。


それが気に入らなかったのか、
貴子は眉根を寄せて私を見た。


怒らせた?


でも、気付かれるわけにはいかない。


見せるわけにはいかない。


だってこれは、私の、私だけの、物語だから。


「見せて」


「い、いや……」


「なんで?」


「なんでも……」


貴子は更に怪訝そうな顔を見せて私を睨んだ。


さっきまでの爽やかな気分はすっかり消え去って、
今の気分は闇の中のどん底に落ちていくようだった。


やめて。


私の物語を、この空間を汚さないで。


ここは私の場所なのに――!


「いいから見せてよ」


貴子が私の腕を掴んで力を入れた時、
ガタンと一つ大きな音がした。


びっくりして体を震わせる。


貴子も驚いたのか、
私の腕を掴んでいた手を緩めた。


音のした方を見ると、
クラスメイトの高田くんがこっちを睨みつけていた。