ご飯をみんなで揃って食べて、
洗面所で顔を洗う。
鏡に自分を映していると、
ふと珀と目が合った。
「なに?」
〈いや、親と仲良くできるんだなと思って〉
「ほんと。自分でもびっくり」
歯磨きをしながら珀の言葉に応える。
するとお父さんも洗面所にやってきて、
同じように歯を磨き出す。
珀はお父さんの顔の前で手を振ると、
おかしそうに笑った。
〈やっぱり、俺の姿は見えないか〉
当たり前じゃない。
珀は幽霊なんだから。
そう心の中で思いながら
歯磨きを済ませて洗面所を出た。
珀はまだ、お父さんのそばにいた。
「いってきまあす」
靴を履いて玄関を出た。
外は晴れやか。
家の前で大きく伸びをして、
私は学校への道を歩き出した。
今日はいつもと全然違う。
見えてくる景色も、この胸の高鳴りも、
今まで経験したことがなかった。
それは多分、珀のせい。
学校に着いて、教室の自分の席に座る。
ノートを開いて、私はペンを取り出した。
―続き、書こう
授業用ノートにそう書いて、私は珀を見上げた。
珀はにやりと大きく笑うと、
顎先に手を当てて私を見た。
〈約束する。これはきっと、
素晴らしい物語にしてみせる〉
珀はポツリと言葉を落とした。
その言葉にドキッとする。
素晴らしい作品に、俺がしてみせる。
そう言われたんだよね?
私のこの物語を、珀の手で仕上げていく。
きっと言わずもがな素晴らしいものになる。
私はそう信じてる。
だって、珀だもん。
珀は小説家だもん。
重版とかしちゃうくらい、
書店に本が沢山並ぶくらい、すごいんだもん。
〈鉤括弧をつけて、この心臓は、
あなたのものなの?ここで閉じ〉
言われた通りに言葉を書き進めていく。
パソコンと違って書くのは大変だけれど、
そんなの厭うことなく、私は書いた。
一分一秒でも無駄にしたくない。
私は、この作業がとてつもなく好きだと思った。


