〈怖いな、女って。今のが友達かよ〉


「私が悪いんだもの、いいのよ。
 貴子は悪くない」


〈ふうん、そんなもんか。
 お前、あんなのと一緒にいて楽しいのか?〉


楽しい、よ。


貴子のおかげで私は平穏な日々を送れている。


それはとても幸せなことで、
毎日がとても楽しい。


貴子は面倒見がよくて
誰にでも分け隔てなく優しい。


この学校に馴染めるかどうか不安だった私に
声をかけてくれたし、今でもたまに、


さっきみたいに出かけようとしてくれたりする。


怒ることはあっても、
すぐに許してくれるのも貴子の良いところだ。


そんな貴子についていくことは悪い事じゃない。


でもなんでだろう。


珀の問いかけに胸を張って楽しいと
答えることが出来なかった。


〈授業、始まるぞ〉


「うん」


私はトイレの鏡に自分の姿を映した。


ひどく疲れた顔をしている。


そんな顔を見てため息をつくと、
黙ってトイレを出た。







教室に戻ると貴子は席に着いていて、
友達と笑ってお喋りしていた。


私もそっと自分の席に着いてノートを取り出す。


パラパラとページを捲って、
土曜日に珀が読んでくれた小説を眺めた。


こんな悲しい思いをした時は
物語の世界に浸ってしまおう。


ここだけが、私の場所。


ここだけが、私が素でいられる場所なんだ。


珀に見せた小説は男の子が主人公の物語。


どうしようもなくダメなやつで、
クラスの中でも浮いているような、
まさしく私のような人物。


その男の子が成長していって、
ついにはクラスの人気者になるお話だった。


私もこんなふうになりたい。


貴子と肩を並べて話せるようになって、
男子女子、分け隔てなく喋れるようになって、


みんなに頼られて、
クラスの中心にいるような、
そんな女の子になりたい。


そう夢を見るのはいけないこと?


現実にそうは出来ないから、
せめて物語の中だけでも、
私は優越感に浸りたかった。