私はポツリと言葉を落とした。


大志は私の眸をじっと見つめて、
それから満足そうに頷いた。


珀は目をぱちくりさせて、私を見ていた。


「そうか。悪かったな。あいつを死なせて」


「大志のせいじゃないよ。
 珀もきっとそう思ってる。
 だから謝らないで。


 あなたは、あなたの思うまま、
 珀の遺志を継いで小説を書き続けて」


「……そうだな。俺には俺のやることがあるな」


大志は小さく笑うと、またパソコンに向き直った。


私もしばらくその背を見つめていた。


片翼の蝶だと言った私を、
珀はどう思っただろう。


突拍子もない事を言ったなと
笑うかもしれない。


それが何故か嫌だったから、
私は珀を見なかった。






夜もだいぶ更けた頃、
大志はパソコンから目を離した。


「出来た。コピーしてくる。少し待っていろ」


「う、うん」


大志は立ち上がると部屋を出て行く。


部屋に取り残された私はポツンと一人、
正座して待っていた。


静寂が耳を痛めるほど強い。


何もない大志の部屋はつまらなくて、
こくり、こくりと眠そうになっていた。


〈片翼の蝶、か〉


ポツリと、珀が言葉を落とした。


「な、なに」


〈言っただろ、片翼の蝶だって〉


言ったけれど、でも、
あれは何でもない。


珀にとっての片翼の蝶は
梨花なんだと分かっているから、
何も言えない。


ただ、あそこはああやって
答えるべきだと思ってしまったんだもの。


仕方ないじゃない。


〈お前は俺の、片翼を持っているのか〉


「えっ?」


〈お前がいれば、俺はまた飛べるのか〉