「なあ」


すっかり暗くなった頃、
大志は指を止めて私を振り返った。


ぼうっとしていて時が経つのも忘れていた。


今更になって首筋に汗が伝う。


もう随分長くいたんだと思うと
お母さんやお父さんの顔がちらついた。


もう帰らなければ。


「結局お前は、珀のなんだったわけ?」


大志にそう問われて、口を開閉させる。


何なのかと聞かれると困る。


友達だと名乗ったはずだけれど、
それが通用していないことは
今の問いで十分分かる。


なんて言おうか迷っていると、
珀が私の耳元でそっと囁いた。


〈愛人とでも言っておけ〉


「あ、愛人って!」


「愛人?」


びっくりして目を丸くしていた大志を見て
しまったと思う。


口を噤んで、私は考えた。


私は珀の何なのか。


たまたま幽霊が見えるだけで、
特別なことは何もない。


珀だって他に幽霊が見える人がいたなら
迷わずそっちに行っただろうと思う。


でも、私を選んだ。


私だけが、見えていた。


これから行動を共にするならば、
それならばこう答えるべきだろう。






「片翼の、蝶」