面白いかどうかは別として、
とても綺麗な物語だと思う。


読んだらきっと面白いのだろうなと思う。


その本を書いた珀はとても、
とても心が綺麗なんだとも思った。






少しの沈黙の後、大志はいきなり
パソコンに向かった。


電源をつけて、真っ黒い画面から
明るい画面に変わる。


真っ白い画面に切り替わった時、
大志はキーボードに指を這わせた。


パチパチと、音を立てて
凄いスピードで打ちつけていく。


大志の目には一筋、
涙がポロリと零れ落ちた。




〈それでいい〉



そんな大志を見た珀は、
ゆるゆると唇に弧を描いた。


何が起こったのか分からず
大志と珀を交互に見つめていると、
珀は私を見て深く頭を下げた。


〈ありがとう。ずっと言いたかったこと、
 大志に告げることが出来た。
 お前のおかげだ。ありがとう〉


「どういたしまして」


言葉がつい口をついて出てしまったけれど、
大志はそれに気付いていない様子で、


ただじっと画面を見つめていた。


私は珀と顔を見合わせて微笑むと、
大志の背中を眺めた。



互いに孤独な、病弱の小説家。


互いに憧れ、時には嫉妬し、
支え合って生きてきた。


それはとても素晴らしいことで、
赤松大志という小説家も、


杉内珀という小説家も、
きっと互いがいなければ


小説家として
歩んでこられなかったんじゃないかなと思った。