片翼の蝶




手紙にはもっと続いていて、
小説家として頑張れよとか、


俺はお前のあの本が好きだったとか、
そういう他愛もない言葉が綴られていた。


小説家っぽい文章というよりは、
ただの一人の男として、
友人として綴っている言葉だった。


特別な技法もなにもいらない。


ただ二人で過ごした
思い出の日々があればそれでいい。


珀がどれだけ大志のことを好きだったのか、
痛いほど分かった。


これを私が見てよかったのか分からない。


分からないけれど、読み終わった今、
とても胸が震えた。







―だからどうか、忘れないで。
 俺にとってお前は憧れであり、
 嫉妬の対象だった。いつまでも、
 俺の憧れの存在であってほしい。
 お前ならもっと高みに、いけるはずだ。
 ここからいつまでも、見守っている。
 友の才能に憧れて死んでいった壱のように。







「壱って、誰?」


「嫉妬と憧憬の、殺された友人の名だ」


大志は私の問いにそっと答えた。


「嫉妬と憧憬」。


全てを読まなくても内容が分かった気がする。


そして珀が書こうとしていた続編も。


主人公は嫉妬の末に友を殺した。


だけど友も、壱もまた、主人公に憧れ、
嫉妬していたのだと思う。


それでも壱はきっと、
親友の人生が花開くことを願って
死を選んだんだろう。


そういう物語なのだろうと思った。