片翼の蝶




嫉妬と憧憬の文字をまじまじと見る。


一度珀に視線をやった。


珀は手紙を読む私を、
じっと見つめていた。









―あの主人公、自分が男を殺したと
 思っているだろう?
 実はあの後の秘話があって、
 主人公が殺したんではなく、
 あの男は自ら死ににいったんだ。
 だから主人公は悪くない。何も悪い事はしていない。
 主人公はそれに気が付いて前を向いて生きていく。
 男の人生を自分で全うさせるように
 男の影を重ねて生きていく。
 そういう続編を書くつもりだった。


 続編が出来たら大志、
 お前にこの本をやるつもりだった。
 これはお前がいてくれたから
 出来上がった作品だ。
 お前と俺だけの作品だ。
 きっとお前なら気に入ってくれると思う。

 でも出来なかった。
 許してくれ。それだけが、心残りだ。







今この手紙を読んだのなら確実に、
大志は自分と重ねていただろう。


お前は何も悪くない。


そう珀に言われているようだ。


何も悪くない。


自分で死んだんだから、
お前は何も気にすることはない。


だから自分の人生を全うに生きてくれって。


そう言っているようなものじゃない。


偶然とはすごいものだ。


死してなお伝えられることは、
この手紙に全て書いてある。


俺は死んだが、お前はどうか生きてくれ。


生きて小説家として名を連ねてくれ。


そう思っているんだ。


そう思えるほど、珀は誰よりも、
大志の親友だったんだ。