片翼の蝶




「ど、どうだったの?」


「はは。これじゃあまるで、
 あいつは俺の事を見透かしていたみたいだ」


「見ても、いい?」


気になった。


何が書いてあるのか。


断られるのを覚悟で恐る恐る聞いてみた。


すると大志は何も言わなかったけれど、
無言で私に手紙を差し出してきた。


私もごくりと喉を鳴らして
その手紙を受け取る。


少し土の匂いを纏ったそれは軽いはずなのに、
ずしりと重いような気がした。








―大志へ。この手紙を読んでいる頃、
 俺は死んでいるだろう。
 なんて、そんな言葉が妥当だろう。
 俺は死んだ。
 この世になんの未練もなく。
 驚くな、あの予言通りに死んでやった。
 
 凄いだろう。
 俺はこんなことも出来るんだ。
 今頃お前は腰を抜かしているかもしれないな。
 まさか本当に死ぬとは思ってもいなかっただろうからな。








黒い笑みを浮かべる珀を思い描く。


死ぬことを何にも厭うことなく、
寧ろ誇りのように思っている珀を恐ろしく思う。


怖くなかったのかな。


自ら死を選ぶなんて。








―お前には随分、世話になった。
 今俺が、作家として本を書くようになったのも
 お前のおかげだ。感謝するよ、ありがとう。
 俺の最初の作品、覚えているか?
 「嫉妬と憧憬」。俺の処女作品だ。