片翼の蝶




「俺はそれを思い出した。
 面白かったから覚えていた。
 あいつは予言通りに、中学も高校も進学した。
 綺麗に予言にハマるものだから、
 見ていてとても清々しかった。


 でも一つ、
 予言に寄ぐわないことが起こった」


「それは、何?」


「あいつの病気が、
 治るかもしれないってことだ」


大志の落とした言葉に、
酷く動揺したのは私だけじゃなかった。


珀は目を見張って大志を見つめた。


「俺が退院出来ると決まった日に、
 偶然聞いたんだ。
 珀の病気は治るかもしれないって。
 それを聞いて嬉しかった半面、恐ろしかった。
 あいつが元気になって世に羽ばたくのが」


大志は自分の両手を広げて見せた。


その手をじっと見つめる。


珈琲はもう、湯気を立ててはいなかった。


「だから俺は、あいつに言ってやった。
 どうせ死ぬなら、予言通りに
 死んだほうが綺麗でとてもかっこいいと」


「それで、珀は死んだの?」


「ああ。あいつの最期の作品、
 「片翼の蝶」を読んで思った。
 珀は死ぬ。これで俺は
 嫉妬に狂わなくて済むって」


大志は弱々しく笑った。


どこか寂しげで、愁いを帯びていた。