あなたが純粋無垢だとしたら、
きっと世の中は純粋無垢な人で溢れ返る。
そう思って笑うと、大志は首を傾げた。
いけないと思って慌てて真剣さを取り戻す。
「まるで、俺を見ているようだ。今ではそう思う」
えっ?と思って大志を見ると、
大志は珈琲に視線を落とした。
「嫉妬と憧憬は、俺の話だったんだ」
「どういうこと?」
「俺は、どこかで珀に憧れていた。
俺もこんな話を書きたい。
もっともっと素晴らしい話を書いて、
本を出して、売れたかった。
決して俺が売れていないわけじゃなかったけど、
もっと貪欲になりたかった。
その光の先にいたのが珀だった」
片翼の蝶を思い出す。
珀の世界観に、私も憧れた。
自分もこんな話が書きたいと思った。
どうして私にはその才能がないんだろうって、
ちょっと悲しくなったりもした。
珀の小説は、そういうものだった。
話の切り口がとても上手で、
柔らかく包み込むような温かさを孕んでいて、
それでいてとても情熱的で。
自分にも書けたらなって思った。
それと同じように、
大志もそう思ったんだろうか。
この「嫉妬と憧憬」には何が書かれているんだろう。
単純に気になった。
読んでみたい。
読んだらきっと、ワクワクして、
ページを捲る手が止まらないんだろうと、
大志の目を見て思った。
「俺と珀は、切磋琢磨しながら育った。
と言っても、俺から得られるものは
ほとんどなかったと思うけどな」


