片翼の蝶




呆れたような大志の視線が痛い。


まだ高校生よ。


珈琲なんて飲めなくても死にはしない。


あんな苦いものが飲めるなんて、
大志は大人だと思う。


大志が淹れてくれた牛乳に
一口つけて辺りを見渡す。


本当に何もない。


「何もなくて悪かったな。
 俺にはパソコンがあればいいんだ」


思っていたことを見透かされたようで
恥ずかしくなる。


ぱっと俯くと、大志が珈琲を飲み込む音が聞こえた。


それほど部屋の中は静寂に包まれていた。


「珀は、俺と同室だった」


静寂を打ち破ったのは大志だった。


「同室って?」


「病院に入院してたんだ。
 小さい頃からな」


大志は珈琲を飲みながらそう言った。


大志も病気だったのか。


病気なんてありふれているんだなと
心の底から思う。


私も牛乳にまた一口口をつけた。


「珀に小説を教えたのは俺だ。
 俺が書いていたのを、
 珀が真似するようになった」


ちらっと珀を見る。


珀は懐かしむように部屋を眺めていた。


話なんて全く聞いていないかのように。


私は呆れてため息をついて、
大志の声に耳を傾けた。