片翼の蝶




〈誰よりも君を見ていた〉






えっ?と思って珀を見つめる。


珀は私を見て唇に弧を描いた。


〈繰り返せ〉


「だ、誰よりも、君を見ていた」


「はっ?」


大志は眉を顰めた。






〈きっと僕が想像もしなかった世界が
 待っているだろう〉





「き、きっと、僕が想像もしなかった世界が、
 待っているだろう」


私が一言一句間違えずに言葉を落とすと、
大志は肩を震わせた。


一体これがなんだっていうの?


というか、このセリフは一体何?


「お前、なんでそれを……」


この言葉が何か?


そう思って大志を見つめると、
大志は目を見張って口を開閉させた。


「そ、それは……俺の、処女作の一文」


珀はその言葉ににやりと笑った。


処女作ということは、もしかしたら
大志も小説家なのかもしれない。


そう思って珀を見つめると、
大志はごくりと喉を鳴らした。


「それは誰にも、いや、
 珀にしか見せたことがない作品だぞ」