片翼の蝶




珀は淡々とそう言って足を進めた。


まだ日は昇ったばかり。


それでも真夏の空は暑い。


拭っても、拭っても、
流れてくる汗は止まらない。


髪の毛が自分の首筋に張り付いて気持ちが悪い。


その髪をはらうと、
珀が私をじっと見つめた。


「何?」





〈お前は……長い髪が似合うな〉





えっ?と思って珀を見上げる。


珀は唇に弧を描いて私を見ていた。


〈とても女の子らしい、そんな感じだ〉


突然の誉め言葉に動揺して惑う。


どうして今そんなことを言うの?


真っ直ぐに見つめられると心臓が跳ね上がる。


普段気にしたこともなかった髪の毛が重く思えて、
そっとその髪の毛に触れる。


べっとりと首筋に張り付いて
うんざりしていたはずなのに、


それがなぜか愛しいものに思えてきた。


「べ、別にこんな髪。切るのが面倒なだけよ」


〈そうか。でも、短くても似合うんだろうな〉


何を唐突に。


そんなこと言われても何も出ないよ?


そんなことを思いながら
私は進行方向をじっと見つめた。