片翼の蝶




しばらくすると電車が到着した。


中から人がなだれ込むように溢れ出てくる。


その波にのまれないように電車に乗ると、
珀もちょこんと隣に立っていた。


珀は私を一瞥するとにやにやと笑ってみせた。


電車に揺られると眠くなってしまう。


流れる景色に目をやりながらうとうとしていると、
目の前にいたサラリーマンが私に寄りかかって来た。


少し煙草の匂いが鼻について、
思わず嫌な顔をすると、


サラリーマンは露骨に嫌な顔を見せた。


そんな顔をしたいのは私のほうよと思って睨みつけると、
コホンと一つ咳をして目を逸らした。


私は、こういうところでしか強気でいられない、
悲しい生き物。


名も知らないようなおじさん相手になら
こんなにも強くなれるものかと呆れてしまう。


これが学校だったら私は、
借りてきた猫のように
途端に大人しくなってしまうのに。


そう思って自嘲気味に笑った。








電車が着いて、背中を押されながら
電車を出ると、少し空気が変わったみたいだった。


ピリッとした雰囲気のこの町はどこか寂しい。


改札を抜けて外に出ると、
人通りの少ない場所まで歩いた。


自動販売機でジュースを一つ買って喉に流し込む。


傍にあったゴミ箱に缶を投げ捨てると、
隣にいた珀へ目を向けた。


「で、どこに行けばいいの?」


〈こっちだ〉