片翼の蝶




私が首を横に振ると、
珀は嬉しそうな顔を見せた。


あ、また……その笑顔。


不覚にもドキッとしてしまう。


口を開けたり閉じたりしていると、
珀は私の顔を覗き込んだ。


〈どうした?〉


「な、なんでも、ない」


ぶんぶんと首を振って答える。


そして私はぐっと拳を握った。


「よし。行くよ!」


珀は唇に大きく弧を描いた。


隣町に行くにはまず、
電車に乗らないといけない。


駅までの道のりを急ぐことにした。


暑い。とても暑い。


だらだらと額に流れる汗を拭って歩くと、
だんだん意識が遠のいていく。


時折休憩しながら意識を保ち、
私はなんとか駅まで行くことが出来た。


切符を買って、改札を通る。


電車はあと三十分くらいで到着予定だった。


疲れて思わず椅子に座り込んでしまう。


深く腰を下ろすと、珀も同じように隣に座った。


人が多くて、珀と話せない。


ただじっと隣に座っている珀を横目で眺めていると、
知らないおじさんが私の隣に腰を下ろした。



あっ、と思って目を見張ると、
珀はゆっくりと立ち上がって
私の反対側の隣に座った。


気持ち悪くないのかな。


自分の上に人が重なるのって。


私だったら嫌だなぁ。


死んでいるとしても、自分の存在を
否定されているみたいで腹が立つし、
悲しくなると思う。


幽霊だから、そんな感情ないんだろうけど。