片翼の蝶




〈ここだ〉


見上げた先にあるのは豪邸。


花々が散っていて、
玄関を彩っている。


表札には「杉内」と記されてあった。


冗談かと思ったけれど、
本当にここが珀の家っぽい。


家には誰もいないのか、
全てのカーテンが閉まっていた。


でも誰かいたらどうしよう。


人様の庭に勝手に入ったら、
不法侵入ってもんじゃないの?


「ね、ねぇ。やっぱり無理。
 勝手に入ったらいけないよ」


〈大丈夫。俺が許す〉


「許すってあなたね、
 もう死んでるんだから」


〈大丈夫。誰もいないから〉


珀は唇に弧を描いた。


しょうがない。やるしかないのか。


ため息を吐いて玄関の門を潜る。


庭に入ると、芝生が柔らかく沈んだ。


サクサクと踏みしめて歩くと、
珀は私よりも前を歩いてぶつぶつ何かを呟いた。


〈ここ、掘ってみて〉


「ここを掘ればいいのね?」


珀が倉庫を指し示した。


私は倉庫に入ってスコップを取り出すと、
さっき珀が言った場所にスコップを突き立てた。


それは十分も経たないうちに何かにぶつかった。


手で少し掘り進めると、箱が出てきた。


箱のふたを開けると、
中から二通の手紙が顔を出した。


「あった……」