片翼の蝶





本を読むと、
必ずと言っていいほど夢を見る。


ほとんどが読んだ本の夢だけれど。


今日は片翼の蝶の夢だった。


私が梨花になって、
翔太のことを探している。


待って、置いていかないで。


私は、私はあなたに会いたいの―。









はっと目が覚めた。


薄暗い天井を見つめる。


ぽつぽつと出来ているシミの数を数えて、
しばらくぼうっとする。


鳥の鳴き声が聞こえた。


体をゆっくりと起こして立ち上がると、
カーテンを静かに開けた。


朝の光を浴びて大きく伸びをする。


長い髪を梳かして鏡を見ると、
珀が鏡を覗き込んでいた。


「ちょっと、びっくりさせないでよ」


〈おはよう、茜。いい夢は見られたか?〉


「まあね。あなたのおかげで
 面白い夢を見られたわ」


梨花との楽しかった日々を夢に見た。


夢の中の、本の中の珀はとても優しくて、
男らしくて、とても綺麗だった。


触れていると心の中がすっと澄んでいくよう。


もう一度、夢の中に身を投じたい思いを抑えて、
私は欠伸をかみ殺した。


〈それで、今日はどうするんだ?〉


「どうするって、あなたの頼みごとを
 解消しに行くのよ」


〈そうか、そうか!〉


珀は顔を綻ばせて喜んだ。


この屈託のない笑顔は初めて見たかもしれない。


いつも上から目線でにやりと笑うだけだったから、
こういう顔をされるとちょっと戸惑う。





私は服を着替えて部屋を出た。


リビングに行くと、
テーブルの上にメモ書きが置かれていた。