片翼の蝶




珀の病気は体を蝕み、
その命を奪っていく。


死にゆく運命は変わらないはずだったのに、
珀は自ら命を絶った。


ほっといても死はやってくる、
というと少し寂しいけれど、


珀には死が分かっていた。


それなのに珀は抗うかのように死んでいった。


それはどうしてなのだろう。


〈病気に、負けたくなかった〉


珀は目を伏せて言葉を落とした。


弱々しく、掠れてしまうような声で。


〈病気で死ぬのなんてまっぴらごめんだった。
 だから俺は自分で死を選んだ〉


「それって、つまり、その……」


〈かっこいいだろう?俺は自分で
 自分の運命を変えたんだ〉


そういうものなの?


かっこいいかは別として、自分で運命を変えた。


そういう感覚なんだろうか。


でも、それってなんだか、とても悲しい。


「格好良くなんてない。私なら、
 そこで死んだりはしない」


私が言葉を落とすと、珀は目をあげた。


挑むような眸。


その眸に抗うように、私は目を逸らした。


「わ、私は生きたい。どうにかして死に抗いたい。
 梨花という存在がいたのなら、
 あなたはどうして死を選んだりしたの?」


〈それは……〉


「梨花はどうなってしまうの?
 二人は一人じゃ生きられないんでしょう?
 残された梨花はどうなってしまうの?」