眼鏡をかけていて少し太めの先生は、
中指で眼鏡をかけ直した。


教壇の前に立ち、皆を見渡すと、
コホンと一つ咳をして出欠を取り始める。


皆暑さにやられて生返事を返していく中、
私はノートを広げてペン先を突き立てた。





出欠を取り終えた先生は
また一つコホンと咳をして
黒板にチョークを突き立てる。


滑るように文字を書く様を見て、
私はその蚯蚓が這ったような文字を眺めた。


とてもつまらない。


こんなことをして一体何の意味があるの?


ただ黒板に書かれた文字を板書して暗記して、
テストの時だけ必死になって叩き込む。


そして時が経てばまた忘れていく。


本当に、学校ってなんのためにあるんだろう。


私はもう高校三年生だけれど、
未だに進路も決まらず、


ただのんびりと毎日を過ごしていた。


何になりたいか?分からない。


多分私は、何にもなりたくないんだと思う。


だって苦しい思いをしてまで
何かになりたいなんて思わない。


ただ普通に、平凡に仕事をして、
ゆくゆくは誰かと結婚して主婦になる。


そして楽に生きていきたい。


そう考えているからこそ、
学校に生きる価値を見出せないでいた。


そんな私には、
皆に内緒にしている秘密がある。


それはこのノートの中にある。


不思議の国の王子さまや、
蛙に変身したお姫さま。


数々の困難に立ち向かい旅を続ける勇敢な勇者や
ただひたすらに恋をする女の子。


このノートにはそれが詰まっている。


それらは全部、私の文字で。