片翼の蝶




手紙には事細かに、
翔太の行動が書かれていた。


この頃から病気が悪化すること、
誰にも言わず姿を消して、
深い山奥で死を迎えること。


どこをどう通って、何を見て、何をして、
最期を迎えるのか。


翔太の幼い字で、それは綴られていた。


梨花は走った。


走って、走って、走った。


ダメ。ダメよ。まだ死んではダメ。


私はあなたがいないと生きていけない。


まだあなたとやりたいことが山ほどあるのよ!










どれくらいそうしていただろう。


気づけば体が固まっていて、
体の疲れがどっと襲って来た。


衝撃だった。


体の奥底から、何かが湧き上がってくるみたい。


この本の結末は、とても切なくて、
とても胸が震えて……。


本をそっと閉じて、胸の中に押しやる。


胸が震えて、止まらない。


涙が溢れて、決壊する。


この本は、そういうお話だもの。




〈どうだった?〉




声がして、ぱっと振り返った。


気づけばそこには珀がいて、
私をじっと見つめていた。


どうしてここに?


そう自分の中で問いかけて、解決する。


そうか、珀は幽霊だった。


「どうって、とても、感動したわ」


〈へぇ。だから言っただろ?傑作だって〉


珀はそう言って唇に弧を描いた。