片翼の蝶







「受かった」


手を口元にあてて涙ぐむお母さん。


そして、この日のためにわざわざ仕事を休んだお父さん。


二人とも、大喜びだった。





あれから日が経って、
私はS大の文学部に晴れて合格した。


合格通知書が届いて、
私たち三人は喜びを分かち合った。


「ダブルでおめでとうってところね。
 本当に、よく頑張ったわね」


「まさか、茜にそんな才能があったなんて思わなかったよ。
 お父さん、感激だ」


「ありがとう。友達と約束あるから、また後でね」


私は両親と別れて、家を出た。


駅に向かうと、何人かではしゃいでいる女の子たちを見つけた。


貴子と、その取り巻きたちだった。


貴子は私に気付いて取り巻きに断りを入れると、
こちらに近付いてきた。


「茜!大学どうだった?」


「合格したよ」


「うそ?おめでとう!これで全員大学生だね」


「ありがとう」


貴子は嬉しそうに私の頭を撫でた。


二人で他愛無い話を少しして、
春休みに買い物に行く約束をして別れた。


私は電車に乗って、隣町まで急ぐ。


駅に着くと、見慣れた人が私を待っていた。


長髪を後ろで一つにまとめたひょろ長の男、
大志は私を見て、にやりと笑った。


「大学、その様子だと受かったんだな」


「うん。なんで分かったの?」


「なんとなく。お前、顔に出過ぎだからな」


「えっ、うそ!」


ははっと笑う大志を見て、私もつられて笑う。


大志はひとしきり笑うと、
真剣な顔になって、それから静かに微笑んだ。