片翼の蝶




涙がポロリと、零れた。


最後のページには直筆で、
杉内珀のサインが書かれていた。




「茜へ。願わくば、比翼連理を願って」



と書かれている。


私は珀の小説を胸に抱いて飛び出した。


走って、走って、息が上がるのも気にせず走った。


向かった先は、あの図書室。


私とあなたが、出会った場所へ。


階段を駆け上がって、廊下を走る。


図書室の扉を勢いよく開けて、私は辺りを見回した。


埃っぽい空間に静寂が走る。


書架の方へ目を向けると、
見慣れたパーカーが目に留まった。


「珀」


〈見つかったか〉


珀は振り返って、にやりと笑った。


体が、透けている。


「こんなのずるい。
 私、あなたにまだ何も伝えてない!」


珀の体が、ぽうっと光り出した。


「こんなの直接言いなさいよ!
 黙っていなくなるなんてずるいよ!」


〈悪い。俺は不器用なんだ。許してくれ〉


「珀、逝かないで。ここにいて」


〈ありがとう、茜。楽しかった。
 幸せだった〉


「私、私は」


〈さよならだ、茜〉


「いや、私は―」


〈いつまでも見守っている。どうか、元気で〉





「私は、私はあなたが―!」




すぅっと、珀の姿が消えた。


光を残して、消えてしまった。









「あなたが好きよ……」









静寂の中に、私の小さな声がポツリと落とされた。


その想いはもう、彼に届くことはないのかな。


聞いてくれていただろうか。


私のこの、小さな声を。


だけどとても大切な、大事な想いを。