片翼の蝶




お母さんは中学時代の
二の舞になってしまうことを恐れている。


だから私に構っては学校でのことを探る。


そんなお母さんを少し煩わしく思ったりもする。


放っておいてほしい。


もう子供じゃないんだから。


いつものほほんと平和に暮らしているお母さんになんか
絶対に私のことは分からない。


分かってほしくもない。


特に諍いがあったわけじゃないけれど、
私はお母さんが嫌いだ。


お母さんに似ているところは一つもない。


私とは違う人間。


だから分かり合えることだってないんだ。


「茜、あんた、進路どうするの?
 もう三年の夏なんだから、そろそろ決めないと」


「うん。分かってるよ」


「分かってないじゃない。
 のんびりやってたら泣きを見るわよ」


「うるさいなぁ」


口を開けば、進路、進路。


進路がなんだっていうの?


別に今すぐ進路を決めなくたって死にはしない。


急いで自分の道を決めなければいけないのはどうして?


人には人のペースがあるっていうのに。


耳を塞いで二階にある自分の部屋に逃げる。


暗かった部屋に電気をつけて、
カバンをベッドに放り投げた。


制服を脱いで部屋着に着替える。


この瞬間が一番幸せ。


何もかもを脱ぎ捨てて
本来の自分に戻れる気がするから。


結局家のこの部屋の中が一番落ち着くのね。


ふと、気になってカバンを探る。


中から出てきたのは、一冊の本。


私はその本を取り出して表紙を眺めた。


「片翼の蝶」と書かれたその本は、
文庫にしては少し薄かったけれど、


ポップな絵が広がっていて、
やっぱり著者名には「杉内珀」と記されていた。