私たちは珀の小説について語り合った。


あの部分が好きだったとか、
あれは珀の勘違いなんだとか、


真奈美には色んな視点から
小説の面白さを教えてもらった。


誰かと好きな小説について話せるのはとても嬉しい。


真奈美もいつの間にかすっかり私と打ち解けてくれて、
気付いたらもう親友のように笑い合っていた。


「でも、珀なんかに気に入られて、
 あなたも苦労するね」


「えっ?」


「珀、ああ見えて甘えたさんだから、大変ね」


「そ、そうなの?」


「そう。口を開けば我儘ばっかり。大変だよ」


真奈美が意地悪く笑う。


私は珀を見ようと顔を上げた。


でも、珀はそこにはいなかった。


特に気にすることもなく真奈美とお喋りを続けて、
もうすっかり時間が経った頃、私と真奈美は別れた。


公園の入り口で反対方向に歩いて行く真奈美を見送って、
一人ぽつんと立ち尽くす。


ふぅっと息を一つついて、私も歩き出した。


〈俺は真奈美に甘えたことはないぞ〉


突然声がして、振り返った。


珀が面白くないとでもいうような顔をして立っていた。


その様子がなんだか可笑しくて笑ってしまう。


自分では自覚がないんだなぁ。


珀は私が笑ったから怒り出して、
頬を膨らませながら私の隣に立った。


「真奈美、死ななくて良かったね」


〈ああ。あいつなら俺がいなくても、
 もう大丈夫だろう〉


「寂しい?」


〈かもな〉