「真奈美?」
彼女はびくりと肩を震わせて私を見た。
やっぱり真奈美だ。
真奈美は驚いたように私を見て、口を開閉させた。
私は真奈美に近付いて向かい合わせに立って、視線を這わせた。
手には「片翼の蝶」があった。
「それ、買うの?」
「ちょ、ちょっと本屋さんに寄ったら
たまたまあったから」
「ふうん。全部読んだの?」
真奈美は小さく頷いた。
そして薄く笑うと、ぎゅっと手に力を込めた。
「ちょっと話さない?」
「えっ?」
「話があるの」
真奈美に言われて、私は静かに頷いた。
真奈美がレジへ向かう途中、
私は珀と顔を見合わせた。
話ってなんだろう。珀のことかな?
レジでお金を払って本を受け取る真奈美の背中を見ていると、
真奈美が小走りで駆け寄って来た。
二人で揃って本屋を出て、近くの公園まで歩く。
公園に着くまで、私たちは無言だった。
何を喋っていいのか分からなくて黙っていたけれど、
それは真奈美も同じらしくて、
横顔を見ると少し戸惑っている様子がうかがえた。
公園はとても小さくて、ブランコが一つ、
遊具としてあるだけだった。
私たちは小さなベンチに腰掛けた。
そして二人で黙る。
先に口を開いたのは真奈美だった。
「珀は、いるの?」
「えっ、うん。まあ、一応」
「どこに?」
「えっと、すぐそこに」
私が指を指すと、真奈美はその指先に視線を彷徨わせた。
それでも真奈美の視線が珀に合うことはない。
真奈美は視線を足元に巡らせた。
「小説、初めて全部読んだの」
真奈美はポツリ、ポツリと話し始めた。


