私はびっくりして大きな声を上げた。


S大って、難関大学として有名じゃない。


そんなところに私が入れたら、
世の中の学生はみんなS大に入れてしまう。


バカなことを言っているなと思って珀を睨みつけると、
珀は真剣な顔をして参考書に目を落とした。


〈何が苦手だ?〉


「全部」


〈ふざけてんのか〉


「大真面目。まあ、あえて言うなら数学かな」


〈よし、じゃあ数学をやろう〉


珀は私を促して、隣に立った。


仕方なくノートを開いてペンを持つ。


数学のページを開いて一問目に目を通した。


ああ、見るだけで眩暈がする。


〈難しく考えるな。公式を覚えていけば
 すぐに解ける問題だ。
 まずは使いそうな公式を覚えることから始めよう〉


「出来ないよ」


〈大丈夫だ。茜なら出来る〉


大丈夫って言葉を使われて、私は戸惑う。


本当に、珀に言われると何故かそうなるような気がする。


私はノートに公式を書き出していった。


そのたびに珀が、これはこういう意味の公式で、
こういう時に使うとか、


これはこう覚えるといいとか、
いろんなことを教えてくれた。


小説も書けて数学も出来るなんて、
分理系どちらも兼ね備えている珀は恐ろしい。


どうやったらそうなるんだと思いながら、
私は勉強を続けていった。


それがもう、驚くほど頭に入る。


いつもは勉強した気になって、
単語帳を作ったり、
ノートを綺麗にまとめたりするだけだったのに、
今はするすると頭に入る。


試しに問題を解いてみたら覚えたての公式が出て来て、
当てはめてみたらすぐに問題が解けた。


びっくりするほどの急成長に驚きを隠せないでいると、
珀はにやりと笑った。


〈これはS大も夢じゃないぞ〉


「そ、そうかな」


〈あと五ヶ月もある。なんとかなるさ〉


珀が手を翳してそう言った。


そうこうしているうちに時間になって、
私は教科書とノートをしまって立ち上がった。