片翼の蝶






また、夢を見た。


今日の夢は「嫉妬と憧憬」と
「片翼の蝶」が入り混じった夢だった。


壱や主人公、梨花や翔太が出て来て、
わちゃわちゃと何やら喋っている。


私はその輪の外にいて、
必死に耳をそばだてる。


けれど何も聞こえない。


もっと身を乗り出そうとするとふいに翔太がこっちを見た。


そして静かに笑うと、「おいで」と一言私に言う。


私はその声に誘われて一歩一歩、近づいていく。


やっと近くまで近寄ると、みんなの話す声が聞こえた。


「あたしが思うに、茜はもっと強くなるべきよ」


梨花が私の名前を口にした。


えっ?と思って梨花を見ると、
壱がうん、と一つ頷く。


「そうだな。一人でもっと行動するべきだ」


「あなたに頼り過ぎなのよ」


私の話をしているの?
でも、なんで?
不思議に思っていると、翔太が私を見て笑った。


「いいんだよ。茜はそのまんまで」


みんなが翔太を見つめる。


翔太はにこにこ笑っていて、私の手を握った。


握られた感覚は夢だからもちろんない。


だけど多分、それは温かいんだろうなと思う。


握られた手を見つめていると、
翔太はポツリと言った。


「時間だ」


「待って、珀!」


ガバッと思い切り起き上がって、
気付くと私は肩で息をしていた。


汗がダラダラと湧き出ていて、
心臓が飛び跳ねるように動いている。


変な夢を見た。不思議な夢だった。


翔太は、ううん、珀は私に触れないのに、
まるで珀に触られていたような感覚だった。


時間って何?私たちには制限時間があるの?


もしかして、もうすぐ会えなくなってしまうの?


そう思うととても怖くて、
そんな日が来てほしくないと思った。


まだ私は、珀のことをよく知らない。


大の親友や片翼と称した女の子の存在、
そして数えきれないほどの作品のうちの二冊を知っただけで、
他のことはよく知らない。


もっと知りたかった。


もっと珀のそばに、いたいと思った。


おかしいかな?



〈呼んだか?〉


「う、ううん。ちょっと夢を見ただけ」


〈夢か。そうか〉


珀はにやりと笑うと、私の隣に腰掛けた。


〈今日はどうするんだ?〉


「本屋さんに行くよ。珀の本を買いに」


〈へぇ。そんなに俺のことが気に入ったか〉


「珀じゃない。本が気に入ったの」