次に「嫉妬と憧憬」を手に取った。
パラパラと捲って、
栞を挟んだページを開く。
私はこの一ページが大のお気に入りだった。
主人公が壱の才能に嫉妬して
心を黒に染めていくシーン。
心理描写がとても面白くて、
ハラハラドキドキする展開が待ち受ける。
私も貴子に嫉妬したりしたこともある。
なんであんなにみんなに好かれていて、
何でも出来て、しかも可愛いんだろうって、よく思った。
私はこの主人公のようにとまではいかなかったけれど、
すごく嫉妬した。
私もこうだったらなって。
もしも私もこの主人公のように
嫉妬が限界を越してしまったら、
言葉巧みに上手く誘って、
貴子を殺そうとするのかな?
そして後悔に襲われて、
それを背負って苦しみながら生きていくのかな。
そう考えるとなんだか恐ろしくて、
私は身震いして本を閉じた。
まだ二冊しか買ってないけど、
もっと珀の小説が読みたくなった。
明日は土曜日だから、
本屋さんに探しに行こうか。
お小遣いも貯金をはたいて、沢山本を買おう。
好きな作家さんは今までこの人!
という人はいなかったから、
こんなに一人の作家で本を揃えようと思ったことは
今までに一度もない。
雑食人間だからどんな本でも読む。
本棚に二冊以上、
同じ名前が並ぶのは珀が初めてだった。
ベッドに入って、天井を見つめる。
そんな私を、珀が覗き込んだ。
珀の顔をまじまじと眺める。
長いまつ毛が目に留まる。
珀は少しだけ微笑んで、私を見つめていた。
〈茜、おやすみ〉
「おやすみなさい、珀」
私も微笑んで、静かに目を閉じた。
閉じられた瞼が、微かな光を浴びる。
するとパチンと音がして、珀が消えた。
私はそっと目を開けて部屋を見渡す。
珀がいたであろう場所を少しだけ見つめて、
部屋の電気を消した。


