片翼の蝶




私はずっと、小説なんて
恥ずかしいものだと思っていた。


読んでいることさえ恥ずかしいのに、
書いているだなんて絶対に人に知られたくなかった。


知ってしまったら馬鹿にされると思っていた。


誰も好まない。


誰も小説を欲してなんかいない。


小説なんていうものに惹かれるのは
変わり者だけ。


そう思っていた。


だから私の周りには
小説を好む人なんていない。


いないはずだった。


なのに、この男は好きだと言うんだもの。


「あ、あなたはどんなお話を書くの?」


〈そうだな。例えばそれとか〉


「えっ?」


〈それだよ。それ〉


珀は白い指先を真っ直ぐに突き出した。


その指先に伸びているのは、
私の抱えている本。


えっ?と思ってその本を見つめた。


「冗談言わないで。
 あなたが書いたっていうの?」


〈そうだ。俺が書いたんだ〉


珀の言葉はサラリとしていた。


もう一度その本に視線を落とす。


慌てて背表紙を見ると、
著者名に「杉内珀」と明記されていた。


「杉内、珀?」


〈俺の本名だ〉


「え、えぇええ!」


びっくりして悲鳴をあげる。


私が何気なく手に取った恋愛小説は、
この男が作者なの?


そんなことあり得る?


私に幽霊が見えるってことくらいあり得ない話。


だってどこからどうみても、珀は高校生だ。


そんなわけがない。


訝し気に珀を見つめると、珀は小さく笑った。