「山田くん」
7月の初め、日差しが照りつける午後。
グラウンドの隅にある花壇に水やりをしていた僕の後ろから、自分の名前が呼ばれたような気がしてゆっくりと振り向いた。
先生かな?
僕のそんな呑気な考えは、次の瞬間あっけなく打ちのめされることになる。
「…今忙しい?
少し話してもいいかな」
自分の後ろに立っている少女はそう言うと、綺麗な二重のクリっとした可愛らしい目で僕を見下ろしていた。
じっと見ていると、吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳。
整った顔立ち。
150cmほどの華奢な体。
薄茶色に光る肩まである髪は、毛先がくるんと内側に巻かれている。
その容姿に、雰囲気に、一瞬で圧倒され身動きがとれなくなる。
「…え、僕に何の用?」
やっとのことで喉から出た声は、少し震えていた。
僕が動揺していることに気づいたのか、少女は首を捻った。
ーーーー動揺するのも当たり前だ。
彼女は、僕とはまるで存在する世界が違う人。
僕にとっては、平和な学校生活を送るために絶対に避けたい“敵”といったところだろう。
そんな僕の心情も知らず、少女は続けた。
「君に頼みたいことがあるの」