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鼻をすすって、乱暴に涙を拭って、
1人で帰る、と口にしようとした
その瞬間



私の視界は真っ暗になった。

彼に、抱きしめられているのだと
認識をすると同時に涙がひっこむ。



「...俺も、ずっと、」



私の大好きな声が、いつもより低くなって
掠れた声で耳元に落ちてきた。



好きだよ



魔法のようなその言葉は、
再び私の涙腺を刺激した。

長いこと、お互いに想いあっていたらしい。

彼はてっきり、私はもう1人の
幼馴染の方を好きなのだと思っていた、と



やっとお互いの想いを知れたと言うのに
何故かお互いにぎこちなくて、
気づけば、私の家の前まで
自転車を押して歩いてきていた。

「じゃあな」

そう言って踵を返そうとする
彼の服の袖をとっさに摘む。



「...今日、家族も妹も家いないから、」



まだ一緒にいたい、なんて
素直に可愛らしく言う勇気は私にはなくて、

視線を外してそう呟いた。



彼は、「ばか」、と困ったように笑って
私の頬を両手で挟んで視線を合わせてくる。



見つめあって3秒後



私の視界は、彼で溢れかえったのだった。



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