.




ケーキの箱を持って、
彼女のアパートの前に立つ。

一応、彼女に連絡はしておいた。



『直接会いたい。ちゃんと話したい。
帰ってくるまで待ってます。』

そして、

『仲直りのハグをしませんか。』



最後の1行は、打っただけで
送信はしなかった。



メッセージに既読マークがつく。



同時に、階段を駆け足で登る足音が聴こえる。

殴るでもいい、罵るでもいい
何をされてもちゃんと受け止める。

かなり不機嫌そうに
大股に近づく足音が愛おしい。
俺を睨んで仁王立ちをする姿すらも愛おしい。



俺は、ケーキの箱を大事に抱えて
ひと呼吸置いて口を開く。



「おかえり」



彼女は俺の腕の中にある箱を一瞥すると、
黙って、家のドアを開けてくれた。



.