「そろそろお部屋にお帰りください。これ以上の密会は敵に気づかれてしまいます」

男性がブランド物の腕時計を見つめる。女性も頷いた。

「そうですね。……闘いは、まだ始まったばかりです」

その人は小屋を出て、泊まっているホテルへと向かう。その目から涙がこぼれた。



目を覚ますと、いつもベルが起こしに来る時間だった。しかし今ここにベルはいないので、起きたとしてもすることなどない。

会議は昨日の事故で延期になったが、警察の事情聴取を受けている間に日は暮れ、ギール国に泊まらざるを得なくなってしまった。船は日が暮れると危険なので出ないからだ。

泊まることになりはしゃいでいたのは、リリーだけだ。俺も含め、あとの全員は暗い表情だった。

それはそうだろう。いくら休戦中だとはいえ、俺たちはこの国の国民にとって外国人だ。しかも世界平和対策本部の中には、自分たちの敵国の人間もいる。

たった一ヶ月ほどで長年の憎しみが晴れるとは誰も思わないだろう。(一人を除く)。

いつ誰に襲われるかわからない。だからこそ緊張が走った。