リリーのはしゃぐ声が耳に届く。

「いろんな味がありますので、欲しくなったらいつでも言ってくださいね」

小町がそう言うと、「は〜い」とリリーは返事をしてまた外の景色を楽しみ出した。

「……そんなにはしゃぐほど楽しいのか?」

俺は資料に目を通しながら訊ねた。

今は世界大戦の真っ只中ということもあり、異国へ旅行などと貴族や王族ですら言わない時代だ。しかしギール国の領海とはいえ、物珍しいものなど海にはないだろう。その証に、どこにでもある真っ青な海が目の前に広がっている。

「…楽しいんだよ。自由だから…」

少し暗い声でリリーが呟くのが聞こえた。

「……どうした?」

俺は資料から顔を上げ、リリーを見つめる。リリーが暗い声で話すことなんてない。

「何でもな〜いよ!」

俺が顔を上げると、リリーはいつも通りの明るい声と笑顔だった。



世界平和対策本部ができたことにより、戦争はどこの国でも休戦という形になった。