その苦しそうな表情に、俺は自然と言葉が漏れた。

「大丈夫か?」

内心リリーの変化に焦ってはいたが、なるべく穏やかな声と笑顔を心がける。リリーの肩に手を置き、リリーを落ち着かせようと試みた。

「リリー、大丈夫ですの!?」

「しっかりして!!」

リリーの異変に気付き、アレックスとフローレンスがパニックになる。俺は、二人に目で「静かにしろ」と命じた。どうやら察したようだ。馬車の中はリリーの荒い呼吸だけが響く。

馬車が屋敷の門をくぐり、停車する。

「着きました。どうぞ」

御者が馬車の扉を開ける。外の涼しい空気が肌に触れた。

「リリー、大丈夫だ。ゆっくり吐け」

御者と、二台目に乗っていた小町たちも、過呼吸を起こして苦しんでいるリリーを見て動揺した。

「すまないが、全員先に屋敷に入ってくれないか?ここは俺に任せてほしい」

小町たちにそう言うと、「わかりました」と小町が頷く。

フローレンスを先頭に、屋敷の大きな扉の中へとみんなは入っていった。