ベルベット卿の屋敷は、街から少し離れた森の中にある。

ベルベット卿が用意してくれた馬車に乗り込み、馬車はゆっくりと屋敷へと向かう。全員は一台に乗れないので、二台に分かれて乗り込む。

流れていくラス国のおとぎ話の世界のような街並みをぼんやり眺めていると、ふとリリーが静かなことに気づいた。

リリーは俺の前に座っている。前を見ると、リリーは黙ったままさっきの俺のように、ぼんやりと外の景色を眺めている。

その横顔は無表情で、いつものリリーと違う。フローレンスやアレックスが話しかけても、聞こえていないようだ。

こんな時に思うべきではないとは思うが、いつも見ないリリーの表情に、胸が締め付けられたが美しいとも思ってしまった。

馬車に揺られること、四十分。緑や美しい花が咲く自然の中に、大きく立派な屋敷が見えた。

俺の心の中に帰りたい気持ちが強く湧き上がる。屋敷は、俺にとって牢獄のように見えた。

「すげぇ〜」

アレックスが呟く。フローレンスも屋敷を見ると緊張したようで、体を強張らせている。

リリーを見ると、馬車に乗った時よりも辛そうな表情をしていた。顔は真っ青になり、呼吸が少しずつ早くなっていく。過呼吸だ。