重森!?
しばらく息を潜めていたら、すぐに音はしなくなった。
誰だ!?ばかやろぉぉぉ!と唸っていると、今度は突然、窓が開いた。
冷気がかたまりになって押し寄せてくる。
奇襲攻撃!あたしは頭を抱えて、うずくまった。
すると、
「何だ、居たのか」
冷たい外気と共に入ってきたのは、沢村だった。
「荷物。取りに来た」
とか言いながら、あたしの怯えきった顔とドアの前に積まれている箱を見て唖然とする。
「そこまでするか」
何とも言い返せないでいると、「そりゃそうだよな」と沢村は呟く。
「いや、これは。実は重森がね」
つい出ちまった。すると、沢村の様子が豹変。
目を剥いて、
「重森?まさかあいつ、おまえに何か言った!?」
「も、もしかして……知ってるの!?」
不穏な空気。沢村は言おうか言うまいか、明らかに躊躇している。
そして、目を反らした。
と思ったら、
「それ、本当だよ」
「え?」
「中学3年ん時」
そっちか。
「ああー……はいはいはい」
あたしは何度も頷く。ホッと胸を撫で下ろした。
てことは、
「きょ、巨乳じゃなきゃダメかな」
「は?」
沢村は眉を顰めて、「アキラと一緒にすんな」と微妙に機嫌を損ねる。
中学3年……重森の言ったそこは真実だったという事か。
時期がどうとかより、相手はユリコちゃんじゃないのかと、そっちの方に驚いた。カミングアウトしてしまった恥ずかしさなのか何なのか、沢村は下を向いてしまう。
き、気まずい。
「重森のヤツ、他に何か言ってた?」
「何も。それだけ」と答える。
重森の事は……今は言うまい。まだ何も起こってないんだし。
もしそれを言ったら、沢村は学校の中心で、俺の立ち入り禁止を解除しろ!と愛を(?)叫ぶ気がした。
それならそれで、また以前のように……それも困るな。
え?何で困るの?
沢村と重森は同じかよ。
そんなわけないよっ!
喧嘩とそれは同じ。嫌なヤツでもヤれる。本気出したら男の方が強い……グルグルと軽く混乱中。
「もう突然入ったりしないから。鍵は開けといてくれよ」と、沢村はドアの荷物をどかした。
何となく、淋しそうに見える。
45歳のその背中。あんまり切なくて、今は脳天気な事も呟けない。
沢村は、隅の電気コードを手繰り寄せ、暗幕をヒョイと箱ごと担いだ。
そこでドアを開けてやる。
掲示板にも貼り出してあるから、もう何の手伝いも言われないと思っていた。それでもまた誰かに頼まれちゃって……どこまでもしんどいね。
周りに使われすぎて自信を失っていく彼を見るのが、正直ツラい。
出来る事なら、受験勉強まで遠回りさせたくないし。
廊下を行く沢村を後ろから追いかけた。暗幕の箱を横から奪ったら、沢村はふいにバランスを失ってふらつく。
軽そうに見えたけど、この箱はずっしり重くて……奪ったまではいいけれど、「うあ!」今度はあたしがバランスを崩して後ろの窓にぶつかった。
沢村は暗幕ごとあたしを引き上げたかと思うと、軽々と箱を担ぐ。
確かに、本気出したら男の方が強いかも。
「おまえ今日塾だろ。予習しろよ。ちゃんと」
沢村は伏し目がちに、小さく笑った。
どうして女には男と同じだけのチカラがないんだろう。
遠くなる沢村を見届けながら……その背中に抱きつきたい、と思った。
近寄るな、と避けたり。くっ付きたい、と願ったり……あたしは自分勝手で我が儘だ。
沢村は、今1番どうして欲しいのか。
考えたつもりが、あたしは自分勝手に立ち回っているだけかもしれない。つくづく、お付き合いに向かない女子だと思う。(巨乳でもないし。)
あたしなんかと、よく付き合ってるな、あいつは。
また独り、生徒会室に戻った。
ドアは……やっぱり鍵を閉めよう。重森が入って来ないように。
窓は……開けておこう。沢村がまたいつ入ってきてもいいように。
もし重森が窓からやって来たら、椅子に上がって上からブチ込んでやる!
あたしは中途半端でいい加減だ。自分勝手と我が儘に加えて。
いつかの沢村の分析も、まんざら嘘でもない、と思う。