「観月さん。なにやってんですか?」

急に聞き慣れた声が前から聞こえて、目を開け前を見る。
部活の練習着に身を包んだ広瀬だった。

なにをやってるもなにも、告白断っただけでキモいやつに絡まれてんのよ!
と、言いたかったけど上手く声が出ず、




「た…すけて…。」



と、気がついたら呟いていた。

いつも仏頂面の広瀬がいつもより怖い顔で顔で近づいてくると、
ガッシリと私と肩を組んでいた山田くんを引き剥がし、その腕を捻り上げた。

「言っときますけど、観月さんが尻軽じゃないです。
軽いのは頭です。頭が軽いんです。
だから、男を何股も出来るほど賢くないんですよ。
それにあんまり、うちのマネージャーに舐めたまねしてたら、この腕くらい簡単にへし折れますよ。」


と、刺さりそうなほどキツい眼光を向けていた。

「すみません。すみません。すみません。」

腰を抜かしながら、山田くんは謝り始めた。

「広瀬!もういい!ほんとに、腕折れそう!」

広瀬は、あたしに促されて手を離すと、
山田くんの手は内出血で青紫になっていた。

どんだけ強く握ってんのよ…。

山田くんは、手を離されると最初のようにおどおどした感じで
逃げるようにこの場を離れる。

その後ろ姿にまだ、冷たい視線を広瀬は送っていた。

「広瀬。なんでここに?部活休みだったのに…。」

私の呼び掛けに、こっちに視線を戻すと

「自主練です。観月さん、バカだとは思ってましたが俺が来なかったら
どうするつもりだったんですか?」

「告白されて、断っただけなのにこんな風になるとは思わないじゃん!」

「人気がないとこに男に呼び出された時点で少しは警戒心とかもってください。
まー、頭の軽い観月さんじゃムリですかね?」

「は?さっきから頭軽いとかバカとかムカつく!!
マネージャー舐めてんのはあんたでしょ!」

あたしが頬を膨らませ、ジトーとした目で広瀬を睨み付ける。

すると、ポンポンと頭を撫でられ

「ほんと…。あんまり心配かけないで下さいよ。」

不意打ちで、安心したように少し口角を上げて呟かれ、
なにも言えなくなって俯いてしまう…。

「ごめん…。」

「今後、気を付けてください。」

「うん…。」

年下に怒られるなんてな…。

しょぼんと下を向くあたしに

「ほら、観月さん。校門で鳴海先輩とたぶん雪代が待ってるんで行きますよ。」

「うん。」


あたしは、広瀬の後ろについて歩き始めた…。