「は?運べるし!邪魔しないでよね!」

生意気な後輩を、睨み付ける。
転けそうになったのを、支えてくれたのだからお礼を言うのが筋なのかもしれないが、どうしても素直に言えなかった。
というか、こんなヤツに言いたくない!

「柊晴!観月先輩!鳴海先輩が呼んでますよ」

後輩である2年生の雪代 颯真(ゆきしろ そうま)が駆け寄ってきた。

雪代くんは、186センチという長身でありながら、威圧感を感じさせない好青年だ。
クリッとした目元は笑うとくしゃっとなり、かわいらしくて、少し天パぽい黒髪で、母性本能をくすぐるような雰囲気の爽やかなイケメンだ。
しかも、人当たりがいいぶん、愛想のない広瀬よりもモテている。
礼儀正しく、いつもニコニコしていてどこか育ちの良さを感じさせる。
実際、家が音楽家揃いで、雪代くんも絶対音感があり、ピアノを弾く姿を1度見たことがあるが、まさに王子様だった。
本人は、「僕なんかよりピアノは姉の方が上手いです」なんて謙遜していたが、
ピアノ以外にも、バイオリンとフルートとチェロは弾けるらしく
入学当時は、身長を求めてバスケ部とバレー部男子に勧誘されまくり、
顔面偏差値が高いうえに、音楽技術をまであるので吹奏楽部にも勧誘されまくり、
大変だったという。

なのに、高校までまともにやったこともなかった、サッカー部に入り、
サッカーの推薦で高校にくる人も多い中で、ほぼ未経験の彼がレギュラー入りしているのだから、もともと才能があったんだろう。

「わかった。」
と、広瀬は雪代くんに返事をしながらも
「観月さんがモタモタしてるからですよ」
なんて、私に嫌味を言いながら、私からかごを奪うと先に行ってしまう。