教室へ入ると、チラチラと女子の視線が突き刺さる。

あ、これめんどくさいやつだ…。


あたしだって涼香以外に女友達がいないわけじゃない。

だけど、友達より敵が多いのも事実だ。

「観月さん、おはよう。」

普段話もしないようなクラスの女子たちが笑顔であたしに、挨拶したかと思うと
取り囲まれる。


「ねぇ、昨日広瀬くんと手繋いで歩いてたでしょ。付き合ってんの?」

と、笑顔が嘘のように眉間にシワを寄せてあたしの顔を覗き込んでくる。

「付き合ってない。迷子になってたところを引っ張ってもらっただけ。」

真顔で言い返すと、ヒソヒソと
「付き合ってないのに男と手繋ぐとか軽っ。」 「あざと過ぎ」

と、言われているのが聞こえる。

威圧感がすごい。女の子たちの纏った空気が黒くてあたし嫌われてるんだなとなんだか悲しくなる。


「私は、影宮くんにお姫様抱っこされてるとこ見た!」

別の女の子が、意地悪そうな顔で言うと

「え、広瀬くんとお祭り来といて影宮くんにお姫様抱っことかビッチ過ぎかよ」

「広瀬くんも影宮くんもかわいそう…。」

「さすが、観月さんはやることが違うわ」

と、女の子にクスクス笑われる。

なにこれ、あたし悪くないじゃん…。
みんな、広瀬や郁斗が好きなだけなんだ…。だけど、どうしていつもこうなるんだろう。
あたしは、唇を噛み
「あれは、足怪我したからで…。」

消え入りそうな声で言うと、

「え?なんて?聞こえませんけどーー。」

と、一人の女の子が大きな声で言い、他の女子たちが楽しそうに笑う。

もう、最悪…。別にあたしが誰とどこで何をしようと関係ないじゃん!
思わず、短いスカートをギュッと握りしめる。

「ん?みんなでリンちゃん囲ってなんの話してんの?」

そのとき聞こえた声に、うつむきかけた顔をあげる。
もちろん、そこにいたのは前の席の影宮 郁斗だった。

「影宮くん、昨日観月さんのことお姫様抱っこしてたでしょ。」

今度は、女子の視線が一斉に郁斗へ向けられる。

「だからなに?君たちも俺にお姫様抱っこしてほしいの?」

と、にっこりと笑った。



…かと思ったら、スッと表情を固くする。真顔…。というより睨むという感じで
冷たい目をしていた。


「と、言うとでも思った?
よってたかって、嫌みを言うようなバカな性格ブス達を抱く趣味俺にはないから。」

突き放すように言うと、女の子たち少し青ざめて離れていく。

普段女の子に優しいプレイボーイの郁斗がこんなこと言うなんて…。

思わず、あたしも固まってしまう。

郁斗は、何事もなかったかのようにあたしの方を向くと、いつもの顔に戻って

「足もう大丈夫?」

と、聞いてきた。


「うん。もうだいぶよくなったよ。昨日はありがとう」

郁斗は、「そっか」と、言うとくしゃと目尻を下げて笑うと、あたしの頭をポンポンと撫でた。

その手が、大丈夫だよって言ってるみたいで嬉しくて少し安心した。