花火が終わるまで、郁斗はずっとあたしをお姫様抱っこしたまま、
立ち止まって花火を見せてくれた。


「ねぇ、せっかくだし写真撮ろう」

花火が終わり、急にシンッと静かになった夜の空気を破るかのように
言うと、あたしはごそごそと巾着からスマホを取り出す。

「せっかくなら、花火が上がってるときに撮れば良かったのに。」

「あ、ほんとだ!残念!まー、いいじゃん。」

そう言いながら、スマホをインカメにする。

住宅街周辺ということもあり、ちょっと暗い。

「ほらもっと寄って!」

と、言いつつ二人で顔を寄せてパシャりとシャッターを切る。

「もういいよ!ありがと」と、言うと郁斗は歩きだす。

撮った写真を確認しているあたしに、郁斗は

「その写真後で俺にも送ってね」

「うん。」

「あとさ、」

「ん?」

「リンちゃんは俺は、女の子なら誰にでも優しいし、
女の子なら誰でもいいみたいに思ってるみたいだけど、
世界で一番優しくしたくて守ってあげたくて大切なのはリンちゃんだけだよ。」


こっちを見下ろす視線が、痺れてしまいそうなほど甘くて
どうしていていいのかわからなくて、視線を泳がせる


「郁斗は、いつもそんなあたしを困らせるようなこと言う…。」

「ごめん。困らせたい訳じゃないから。ただ、それだけわかってほしかっただけ。」


「うん…。」


わかってるよ。郁斗が大切に思ってくれてること。
だってあたし達は兄妹のようにずっと一緒にいたんだから。
そしてこれは、これからも続く親愛であり友愛だ。


「あのさっきの、広瀬くん?だっけ仲良くなったの?」


「え、いや…。生意気だしムカつく後輩だよ。ただ…。」

「ただ?」

「根はそんなに悪いやつじゃないような、気がするような気がする」

「なんだそれ」

と、郁斗は笑うが、その表情はどこかいつもより硬いような気がした。