再び屋台の通りに戻ると、もうすぐ花火が上がるからか人がさっきよりも
数倍増えていた。

うわっ

なれない下駄で、よろけながらあたしは人の波を掻き分けるようにして
歩く。

屋台と屋台の狭い道にたくさんの人がいて、押し潰されそうだ。

前が見えないし、なんだか息苦しい。


ガシッ

いきなり後ろから腕を捕まれ、驚いて振り替える。


「なにやってんですか。」


そこには、人混みを掻き分け、あたしの腕に右手を伸ばす広瀬だった。


「こっちです。」と、聞こえたかと思うと、

あたしの腕を引っ張り歩く。
広瀬が盾になってくれてるからか、さっきよりも楽だ。

あたしの腕を掴むひんやりと冷たい手を感じながら、

前を歩く広瀬のあたしよりもずっと大きな背中を見つめる。

ちょっと頼もしいじゃん…。


広瀬は屋台と屋台の間の小道に入っていくと、賑やかな通りから離れた

人がいない薄暗い神社の建物の前で立ち止まる。

「人多すぎ!髪の毛ボサボサになっちゃうし!」

先に見える人混みを見つめながら不満を言うと

「なんで大人しくベンチで待ってないんですか」

と、呆れたように言われる。

「だって、あの二人の邪魔できないし?」

「はぁ…。それはそうかもしれないですね。」

「でしょ!あたし達はここでなにか食べたりしてから戻ろ」

「そうですね。」

と、言うと広瀬からりんご飴を差し出される。

「やった!りんご飴だ!」

「さっき食べたいって言ってましたもんね」

「聞いてたんだ!やるじゃん!」

「観月さんに誉められても嬉しくないです」

そういいながら、広瀬は持っていたビニール袋から
たこ焼きを出すと黙々と食べ始める、


仕方ないから、あたしもりんご飴の封を開ける。

「観月さんは、あの二人のことどう思います?」

こっちを見ずにぼんやりと宙を見つめて広瀬が聞いてくる。

「お似合いだしうまくいって欲しい。とは、思ってる…。」

「けど、鳴海先輩正直あいつのことなんとも思ってないですよね」

「まーね。」

私は、ペロペロとりんご飴を舐めながら答える。

「あんたは、今日お祭り一緒に行きたい女の子とかいなかったの?」

「いたら、今日観月さん達と来てませんよ」

「それもそうか。あんたモテんのにねー。相手いないのかー」

からかうように、あたしが隣に立つ広瀬をチラリと見上げると

がっつり目が合ってしまう。

「観月さん。」

広瀬は少し屈んであたしの耳元であたしの名前を呼ぶ。
それがいつもより少し色っぽく聞こえてドキリとする。

「な…に?」

「観月さんせっかく今日は薄化粧だったのに、
りんご飴のせいで唇真っ赤だしツヤツヤになってますよ。」

と言って、広瀬は不敵に微笑むと、顎を左手で捕まれクイッと持ち上げられる。


『試してみます?』
さっきの、意地悪そうな顔が頭に過り、顔が暑くなるのを感じた。

キスされる?


思わず、ギュと目を閉じる。



だけど、唇に感じたのは少しパサついた、いやごわごわした無機質ななにかだった。

驚いてを目を開けると、広瀬がハンカチであたしの口を拭っていた。


「いきなりなにすんのよ!バカ!」

「観月さんが口の周りにまでりんご飴つけてたからべたべたすると思って、
人がせっかくしてあげたのに。」

「乱暴にしないでよね!唇荒れちゃうでしょ!」

勘違いしそうになった自分が恥ずかしいし、
こんなヤツに一瞬でもときめきそうになった自分に腹が立つ。


「もしかして、キスされるとか思っちゃいました?」

と、からかうように聞いてくる広瀬の持っていた最後の一個の
たこ焼きを奪い、パクリと横取りして食べる。

「な、わけないでしょ!ほら、そろそろ涼香達のとこ戻るよ」


と、あたしは広瀬を置いて歩き出した。