二人の消えていった人混みをぼんやりと見つめながら、
あたしはかき氷を口に運ぶ

「このあとさ、向こうで花火上がるってよ」

涼香が、ストローでかき氷の液を啜りながらスマホをいじる。

「なら、二人が戻ってきたら見に行こう!」

「そうだな!」

「ねぇ…。涼香」

あたしは、思い切って聞いてみることにした。


「涼香さ、もし男子と二人きりでお祭りに行くなら誰と行きたかった?」

涼香は仲のいい男子も多いが、そのなかでも間違いなく雪代くんは
特別だと思う。
一番後輩の中で涼香が目をかけている後輩だし、なにより
雪代くんは涼香のことをよく理解している。

本当にとっても、お似合いな二人なんだ。

だから、少しは涼香に雪代くんのことを意識してほしい。


「男子と二人で?そうだなー…。」

涼香はストローをくわえたまま、視線を考えるように斜め上に向ける。

「あ、時雨かな。」

え…。

意外な言葉に思わず、口が開いてしまう。


だって、時雨と涼香は入学当初からよく揉めていた。
お互い部のためにという目的は一緒なのに意見のぶつかり合いが凄まじかった。

そもそも、学校内ヒエラルキートップの時雨に文句を言ったり、
反抗してくるような女子なんて涼香ただ一人だ。

だから、時雨は涼香のことを俺に楯突くなんて面白い女と面白がって
いるようだし評価もしている。

その代わり、涼香は時雨の俺様ぷりにブチ切れるなんて日常茶飯事だ。


「なんで時雨なの?」

あたしが聞くと、

「だって、アイツめっちゃ金持ちなんだよ!絶対こんな地域の祭りとか
来たことないでしょ!金魚すくいとか一緒にしたら新鮮で楽しいじゃん!
驚いてる顔とか見てみたいし」


と無邪気な笑顔で楽しそうに言う。

あれ…、あたしこんな表情の涼香見たことない。

涼香って、美人が故に黙ってたらすごく冷たそうに見えるし、常に凛としている。
だけど、涼香が笑うと太陽のような眩しさを感じさせるだからあたしは
涼香の笑った顔が好きだ。

だけど、今の無邪気な顔は少しはにかんでいるようにも見えて
心がざわつく。


「涼香ってもしかして時雨のこと…。」

「先輩たち!」

あたしの言葉を遮るように、食べ物のパックを抱えた雪代くんが戻ってきた。

「広瀬はまだいろいろ買ってると思うんで俺だけ先に戻ってきました。
これどうぞ。」

と、焼きそばのパックを涼香に差し出して、王子様のようなスマイルを浮かべる雪代くんに、あたしはなぜか後ろめたいような切ないような気持ちになって慌てて、立ち上がる。

「あの、あたしトイレ行ってくる…。」

「気をつけてな!」

と、手を振る涼香に、うん。と返しながらあたしはまた、
人混みの中へと入っていく。