秋の風に煽られて手紙がガサガサと鳴る。


(夜璃子さん…)


 胸があったかくなる。


(ごめんなさい。先生とのこと勘繰ったりして…

 しかも、私のために時間を割いてくれたのにちゃんとお礼も言わないで逃げ出して…)


 後で夜璃子さんにお礼メールしよう。

 頭の良い、ポリシーのある、黒髪ストレートの素敵な人─



 それから、封筒の裏にはなぜか何も書いてない黄色い付箋が貼ってあった。

 それも、糊付きの付箋にもかかわらず、四辺をテープでしっかり貼り付けられて。


 私はテープを爪で剥がす。
 と、付箋の裏側に何か書いてあった。


『今日放課後、準備室に来るように』


 そして下の方に少し小さく


『時間があれば』


と書き足してあった。


 名前は書いてないけれど、誰からのものか字を見れば直ぐ分かった。
 いつも準備室で英語を教えてくれる時ノートに書かれる、あの愛おしい文字─


(先生…)


 昨日からもやもやと胸に燻っていた気持ち。そのもやもやは夜璃子さんや先生に対してじゃなくて、もやもやと感じてしまう自分に対しての自己嫌悪。

 でもそんなものもこんな単純なことで降り注ぐ朝陽に霧が晴れていくみたいに穏やかになっていく。本当にバカみたいなんだけど。


(先生が準備室に呼んでくれた…)


 私は手紙と封筒を抱き締めた。
 胸の中でそれらがクシャと音を立てる。


(ごめん、でもやっぱり…好き)


 次の授業の始まりを告げるチャイムが秋空の下の屋上に鳴り渡った。

       *   *   *