カフェの小さなテーブルを挟んで、私の隣に先生、向かいに夜璃子さんが座る。

 直ぐ隣に先生がいるというシチュエーションなのに私の気持ちは盛り上がらない。
 手元のカフェモカのカップに視線を落とす。


「で、研究のどこに興味持ったの?」

 開口一番夜璃子さんが訊ねてくる。


「えと…もともと古文とか好きで…
 先生の話を聞いて、英語も奥が深いな、と思って…

 あの…英語だと更に…国際社会の役に立つっていうか…その…」

 唐突な問いに私はしどろもどろになってしまう。


「やめろって。面接じゃねんだから」

「分かってるわよ。
 でもただのあんたのファンの子にはきついわよ?うちの研究室は。昴だって分かってるでしょ?」

「そんなんじゃねぇよ、南条は。なぁ?」


 先生が私に優しい視線を向ける。



「…はい」

 ファンじゃない、って胸張って言えるのかな、私…


「南条はね、俺の妹なの!」

「は?妹?義兄妹の契りでも交わしたの?劉備かなんかなわけ?昴は。
 ていうか、昴の方が弟キャラよね?どっちかって言うと」

「はぁ…」


 先生が溜め息を吐く。
 どうも今日の先生は夜璃子さんに調子を狂わされてるみたい。


「学校の様子とか、東京での生活とか南条に話してやって欲しいんだ」

「昴が話したんじゃないの?」

「研究の話はな。
 けどほら、俺は実家住みだったし、暮らしぶりとかはやっぱ女の子同士の方が分かることもあるだろう?」

「ふうん」

 夜璃子さんがホットソイラテを一口飲む。


「東京に親戚とかは?」

「ありません」

「そうなんだ?受験当日どうするの?日帰り…はさすがに無理よね?」

「前日どこかに泊まろうかと」

「え…大丈夫?最近海外からの観光客需要でその時期近隣のホテル取りにくいよ?」

「そうなんですか!?」


 そんなこと考えてもなかった…


「実はそれ、今日夜璃子に頼みたかったんだ」

 先生が言う。


「前日一泊南条泊めてやってくれないか?」

「えっ!?」

 驚いて先生の顔を見た。


「うちに?まぁ私が居ればいいけどね」

「居てくれよ」

 先生が苦笑いする。


「昴の実家は?」

「大学からちょっと離れてるからな。乗り換え2回だし南条一人じゃ移動が無理だ」

「まぁそうね」


 夜璃子さん、先生の実家知ってるんだ…

 私はカフェモカの上で溶けかけたクリームをスプーンの先で混ぜる。


「昴もうち泊まりに来る?」


「!!」


 カチャン!!

 夜璃子さんの言葉に思わずスプーンをカップの中に取り落とした。